2020年代のJ-POPシーンを語るとき、避けて通れない名前がある。
米津玄師、ヒトリエ、YOASOBI、そしてずっと真夜中でいいのに。
彼らに共通しているのは、ただ音楽を「聴かせる」だけでなく、物語を「読ませる」力を持っているということだ。

■ 米津玄師 ― 音楽とアートの境界を溶かす人

米津玄師は、音楽そのものを「総合芸術」に昇華させたアーティストだ。ボカロP「ハチ」として活動していた頃から独自の世界観を持っていたが、ソロになってからはさらにその表現が広がった。彼の楽曲には、絵画的なイメージが織り込まれており、歌詞を読むだけでまるで短編小説を読んでいるような気持ちになる。彼の声は、言葉を「感情」に変換する触媒のようだ。

■ ヒトリエ ― 消えた声と残された音の輪郭

ボーカルのwowakaがこの世を去った後も、ヒトリエは止まらなかった。wowakaの書いた歌詞には、言葉にしきれない「生きづらさ」と「衝動」が詰まっていた。それは、ネット発の音楽がリアルな「叫び」として社会に届いた最初の瞬間でもあった。今のヒトリエは、喪失を抱えたまま、それでも前に進むバンドとして、また違う深みを手に入れている。

■ YOASOBI ― 小説を音楽に変える錬金術

「小説を音楽にするユニット」というキャッチコピーは、ただのギミックではない。YOASOBIは、本当に物語の「呼吸」や「情景」を音にしてしまう。Ayaseのトラックは緻密に構築されていて、ikuraの歌声はその中に登場人物の「声」を吹き込む。楽曲を聴いたあとに原作小説を読むと、逆に音楽が脳内で再生されるのが不思議だ。

■ ずっと真夜中でいいのに。 ― 名前のない感情に触れる音楽

「ずとまよ」は、匿名性と個人性を絶妙に両立させたプロジェクトだ。ACAねの歌声は、どこか素っ気ないようでいて、どこまでも感情的。歌詞には難解な言葉や比喩が散りばめられていて、聴くたびに意味が変わっていく。都市的でデジタルなサウンドの中に、どこか「人間くささ」が残っているのが彼女たちの魅力だ。

■ 境界を越える音楽たち

この4組に共通するのは、ネットカルチャーにルーツを持ちながら、それを「現代のメインストリーム」にまで押し上げたことだ。そして、彼らの音楽はすべて、「物語」と「音楽」の境界線を曖昧にする。
彼らの作品は、もはや「歌」ではなく、「読む音楽」なのかもしれない。

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